ピロリ菌について
ピロリ菌とは正式にはヘリコバクター・ピロリと言い、胃の中に生息する細菌です。大きさは4ミクロン(4/1000㎜)程度で螺旋状の形状をしており、片側に付いた長い鞭毛を回転させることで、胃の中を自由に動き回ります。
本来、胃の中は強酸性の胃酸に満たされているため侵入した細菌はすぐに死滅しますが、ピロリ菌は胃粘膜の尿素を分解することで、周辺の胃酸を中和して胃の中に生息し続けます。
なお、ピロリ菌が発見される以前は、胃の中で生息できる細菌は存在しないと考えられていましたが、1983年にオーストラリア人のバリー・マーシャルとロビン・ウォレンが初めてピロリ菌を発見し、この発見によって2005年に2人はノーベル生理学賞・医学賞を受賞しています。
胃は本来、胃酸によって自らがダメージを受けないように、胃粘膜のバリアを張って自らを防御しています。しかし、ピロリ菌に感染するとピロリ菌が分泌するアンモニアや毒素によって胃粘膜の防御機能が低下するため、胃痛や慢性胃炎、胃潰瘍など様々な症状が現れるようになります。
その他、ピロリ菌に感染することで胃がんの発症リスクが向上することも報告されています。
ピロリ菌は一般的に幼少期に感染することが多く、一度感染すると基本的に除菌治療を行わない限り半永久的に胃の中に生息し続けます。なお、ピロリ菌感染によって炎症が起きても自覚症状はほとんどないため、本人も気づかないうちに病状が進行し、胃痛や胃炎、潰瘍などの症状が現れた時点で初めて感染を自覚するケースも多く見られます。
ただし、ピロリ菌は胃内視鏡検査によって感染の有無が確認でき、感染が確認されても除菌治療を行うことで死滅させることが可能です。
ピロリ菌とウレアーゼ
胃酸はpH値1〜2という金属を溶かすほどの強酸性の液体です。この強酸によって、食べたものを消化したり、口から混入した細菌やウイルスを殺傷することができます
。ピロリ菌が生息できる環境はpH6~7であるため、本来は胃の中では生息できませんが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を分泌することで胃酸の中の尿素をアルカリ性のアンモニアに変換し、胃酸を中和して生息しています。
このアンモニアによって胃粘膜の防御機能が低下し、毒素を生成することで胃粘膜がダメージを受けて様々な症状を引き起こすようになります。
ピロリ菌の感染ルート
今までの研究から、ピロリ菌の感染ルートは不衛生な井戸水や糞便などを媒介にして感染し、その後人から人へ感染が拡大していると考えられています。感染者のほとんどは幼少期で、成人になってから感染するケースは稀です。
一般的にピロリ菌は公衆衛生が未発達である発展途上国に多く見られ、先進国ではほとんど見られない感染症ですが、日本は先進国の中でもピロリ菌の感染者が最も多い国となっております。とりわけ40代以上の感染者が多く、中には若年層の感染者も確認されています。日本国内でピロリ菌感染が多い原因は明確には解明されていませんが、主な原因として、唾液や歯垢にピロリ菌が含まれている感染者が子どもに食べ物を口移しすることなどがきっかけで母子感染が起こり、その後家庭内感染へと拡大していることが考えられています。
感染を防ぐためには?
日本は公衆衛生が発達しているため、生水を媒介にしてピロリ菌に感染するケースはほとんどありません。しかし、衛生面の整備が不完全な発展途上国などの場合には、生水からピロリ菌に感染することもあるため、渡航の際には特に注意が必要です。
また、ピロリ菌の感染者が子どもに口移しなどをする際に母子感染が起きるケースもあるため、子どもが生まれる前に胃内視鏡検査によってピロリ菌感染の有無を確認し、感染が確認された場合には除菌治療を行っておきましょう。
なお、日本のピロリ菌感染者の多くは高齢者です。周囲に感染を拡大させないためにも、定期的に胃内視鏡検査を行い、自身の感染状況を把握しておくことが大切です。
胃痛や不快感が長引く方は、
ピロリ菌感染が
原因かもしれません
ピロリ菌感染の主な症状は、空腹時の胃の痛みや食後の腹部の痛み、胃もたれ、胃の不快感、食欲不振、吐き気などになります。これらの症状は胃潰瘍や十二指腸潰瘍、慢性胃炎にもよく見られる症状ではありますが、長い期間症状が続くようであれば、ピロリ菌感染の可能性が高まります。
ピロリ菌感染は、長い間放置すると胃粘膜が徐々に損傷を起こして胃がんの発症リスクを高めるため、注意が必要です。ピロリ菌感染は、除菌治療を行うことで改善することができます。胃潰瘍や慢性胃炎、将来的な胃がんの予防のためにも、できるだけ早期に検査を行なってピロリ菌感染の有無を確認し、感染している場合は除菌治療を行うよう努めましょう。
ピロリ菌が原因となる疾患
ピロリ菌は、胃の中に生息することができる極めて珍しい細菌です。本来胃の中は強酸性を保っているため細菌が生息することはできませんが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を分泌することで胃液内の尿素をアルカリ性であるアンモニアに変換し、これによって胃酸を中和することで生息しています。
また、ピロリ菌はウレアーゼ以外にも毒素を分泌し、この毒素によって胃粘膜が損傷して様々な症状を引き起こしたり、ピロリ菌が胃の中に生息していることで体が免疫反応を起こし、炎症を引き起こすケースもあります。その他では、特発性血小板減少性紫斑病や胃ポリープ、胃MALTリンパ腫、機能性胃腸症(FD)などの病気もピロリ菌感染が関与していると考えられています。
ピロリ菌は除菌治療を行わない限り半永久的に胃の中に生息し続けますので、できるだけ早く除菌治療を行うことが、症状の進行を食い止める上で重要になります。また、ピロリ菌は除菌せずに放置すると、将来的に胃がんの発症リスクを高めることも報告されており、1994年には、WHO(世界保健機関)がピロリ菌を確実な発がん因子と認定しています。
ピロリ菌感染との関係が
指摘されている病気
- 胃潰瘍、十二指腸潰瘍
- 慢性胃炎
- 胃がん
ピロリ菌の感染検査と除菌治療
ピロリ菌感染の有無は検査によって確認することができます。検査方法には、内視鏡を使用する方法と使用しない方法があります。慢性胃炎を発症している場合には、ピロリ菌感染検査を保険診療扱いで受診することができますが、その際は胃内視鏡検査を受診する必要があります。
検査の結果、ピロリ菌陽性判定が出た場合には、ピロリ菌の除菌治療を行います。その後、除菌治療が成功したかどうかを確認する呼気検査を保険診療扱いで受けることができます。
内視鏡を用いる検査
胃内視鏡検査を実施した場合には、胃粘膜の組織を生検採取して、ピロリ菌感染の有無を確認します。
迅速ウレアーゼ検査
迅速ウレアーゼ検査とは、ピロリ菌が分泌するウレアーゼが尿素を分解して作りだすアンモニアによる反応の有無を試薬で調べることにより、ピロリ菌感染の有無を確認する検査です。
鏡検法
鏡検法とは、染色した組織を顕微鏡で確認し、ピロリ菌の有無を確認する検査です。
培養法
培養法とは、内視鏡で採取した組織を培養し、ピロリ菌が増殖しているかどうかを確認する検査です。
内視鏡を用いない検査
抗体測定
抗体測定とは、尿検査や血液検査によって尿や血液中のピロリ菌に対する抗体の有無を確認する検査です。
尿素呼気検査
尿素呼気検査とは、特殊な薬剤を使い、薬を飲む前と飲んだ後の呼気を比較して感染の有無を確認する検査です。
便中抗原測定
便中抗原測定とは、便を採取してピロリ菌抗原の有無を確認する検査です。
除菌治療について
ピロリ菌検査で陰性判定の場合は、病状に応じて最適な治療を行います。陽性判定の場合には、ピロリ菌の除菌治療を実施します。
除菌治療自体は除菌薬を1週間内服するだけですが、治療を受けるには内視鏡専門医による胃内視鏡検査を受診することが必要となります。除菌治療についてご質問のある方は、遠慮なく担当医にご相談ください。
ピロリ菌は除菌しても
胃がんのリスクは残ったまま?
ピロリ菌は胃がんの主な発症原因の一つですが、除菌に成功してもそれまで長期間感染して胃粘膜が激しく損傷している場合には、除菌治療に成功したからといって胃がんのリスクがなくなるわけではないため、注意が必要です。
除菌後は胃内視鏡検査を
年1回行うことを推奨します
前述通り、ピロリ菌除菌に成功しても常に胃の状態を把握しておくことが大切です。そのため、当院では除菌後も定期的に胃内視鏡による胃がん検査を行うことを推奨しています。
ピロリ菌に長期間感染して萎縮性胃炎を起こしている場合は、除菌治療を行っても引き続き胃がんのリスクが高いため、注意が必要です。感染している期間が長いほど胃がんのリスクは上がります。除菌後は年1回の割合で胃内視鏡検査を受診されることを推奨しています。
潰瘍再発も起こる可能性があります
ピロリ菌は胃潰瘍を引き起こすこともあるため、除菌治療を行うことで胃潰瘍の再発を予防することができます。しかし、胃潰瘍は非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)の服用が原因で引き起こされることもあるため、注意が必要です。
胃がんのみならず胃潰瘍の再発を防止するためにも、除菌後も年1回は胃内視鏡検査を受け、自身の胃の状態を確認するよう努めましょう。